| 昨日、見に行って来ました。駅前で役者のみなさんに迎えられ、四条畷神社への参道では、建物の窓からの合唱や自転車で行き交う不思議な人々に出会い、神社境内での即興芝居を楽しんだ後、ゆっくりと田圃の脇を通って「えにし庵」(写真は入口)に着きました。
「えにし庵」を訪れたのは初めてだったのですが、庭に土盛の能舞台があり、建物と木立に囲まれた庭とが一体となった、実に興味深いところでした。よしださんの演出は、この場所の特性を生かしたもので、ある時は建物の奥から、またある時は木立の辺りから、人々がたち現れ、あるいは消え入って、能舞台の周囲で交錯するという、空間性の高いものでした。
照明についても、絡み合う複数のストーリとうまく組み合わされ、時には闇の中にブラックライトで不思議な形を浮かび上がらせるなどの工夫が凝らされていました。ただ、私には、主照明が明るくて広すぎるように感じられ、そのせいで闇の効果が少し弱くなってしまったかもしれません。
音響効果も印象的でした。最初、コオロギの音が聞こえて来た時には、本当の虫の音かと思ったくらいです。スピーカーが立体的に配置され、演劇ならではの音による空間表現を堪能させてもらいました。さらに、役者による生のリンバ演奏まで組み入れられていたのは、感動的ですらありました。
こんな具合で、「本当に、よしださん、これが初めての演出なの?」と驚いてしまうような内容の公演でした。あ、言い忘れていましたが、劇中に本物のひつじまで登場させるとは、その手配力にも脱帽です。
そして、何よりも好感がもてたのは、演劇を建物の中に封じ込めずに、道案内を兼ねた市中劇とも組み合わせるなど、現実の街、実在の世界そのものとも関係を持たせようとしている姿勢です。市中劇の道中で出会った、何かぶつぶつ、つぶやきなながら、シェービングクリームを塗ったまま自転車で通りすぎた男性が、後に同じ格好で本編に登場し、観客に問いかけをして幕引きとなる、という構成にも、この演劇の隠れた意図が示されているように思いました。
また、市中劇の道中、神社の近くで自転車の修理をしている親子を眼にしたとき、彼らの日常的な行為が実に魅力ある姿に映ったのも、演劇という文脈が、逆に現実の世界の見方に影響を与え得ることを実感させてくれる、新鮮な発見でした。 あと、かがり火の配された「えにし庵」の前庭でおでんが振る舞われたのも、ちょうど日常と非日常の中間領域で、公演の前後の時間を楽しませてもらうことのできる、嬉しい仕掛けでした。
こうやって記述すると、本当に、至れりつくせりの内容ですね。演劇そのものの演出だけでなく、公演を実現するための企画段階でも、スタッフのみなさんのなみなみならぬ力が注がれたことでしょう。このような大変なイベントを、そう度々実施するわけにはいかないだろうとは思いつつも、一観客としては、早くも次回作を見たいという気にさせられます。というわけで、さらなる展開に大いに期待しています!
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